里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

152. 里見にせまる敵たち

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■里見にせまる敵たち

箕田(みたの)馭蘭二(ぎょらんじ)根角(ねづの)谷中二(やちゅうじ)穴栗(あなぐり)専作(せんさく)は、落鮎たちを逮捕するために穂北の村を襲撃したのですが、住人はすでにすっかり逃げてしまった後です。家々がまだボウボウと燃えています。

馭蘭二(ぎょらんじ)「くそっ、このまま帰っても格好つかねえ」

馭蘭二(ぎょらんじ)は、火事の様子を見に来ていた隣村の人を片端からとらえ、そのうち幾人かを斬り殺すと、消え残った火に放り込んで焼いてしまいました。そうしてから黒コゲになったクビだけを回収しました。

馭蘭二(ぎょらんじ)「ほら、これで一丁あがり」

これらを城に持ち帰ると、定正に、落鮎と側近たちが自刃して焼け死んでいた、と報告しました。火の中で拾った刀もいっしょに提出しましたから、それっぽく見えました。

定正「ちょっとこれではクビの実検ができないが… まあ、そういうんならそうだろう。よしよし、よくやった。谷中二(やちゅうじ)専作(せんさく)の罪を許す。任地の忍岡(しのぶのおか)に戻るがいい。捕らえた世智介(せちすけ)らは、さらに取り調べをすすめよ」

谷中二(やちゅうじ)専作(せんさく)は、生け捕りたちを連れて、さらに忍岡まで運びました。途中、捕らえられた村人たちの親族が行列をさえぎって「この人は無実です、返してください」と嘆願しました。谷中二(やちゅうじ)は、「無礼者」と叫ぶとこれらの人々を追い立て、逃げ切れなかった女や老人をさらに捕らえ、あとで定正には「敵の関係者をさらに捕らえました」と報告しました。


さて、定正(さだまさ)は、今回のことを手がかりに、犬士(けんし)たちの居場所と、また彼らが孝嗣(たかつぐ)を奪ったことを知りました。

定正「あの犬士とやらを使ってこの私にさんざん恥をかかせたのは、安房の里見だったのか。絶対に許せん。ギッタギタにしてやらねば気が済まぬ。特に犬士たちは八つ裂きにしてやりたいくらいだ」

定正は、属領の大塚から、大石(おおいし)憲重(のりしげ)とその息子である憲儀(のりかた)を呼びました。そして今までに分かったことの概要を説明しました。

定正「あの八人の男どもは許すべからざる罪人であるのに、それを手下に従えて知らん顔をする里見は、私をひたすらバカにしている。犬江親兵衛という男などは、妖術を使って私の手下の目をくらまし、わが重臣の河鯉(かわこい)孝嗣(たかつぐ)を奪ったのだ。そもそもあの里見(さとみ)義実(よしさね)という男は、浪人として安房に流れ着き、そこで小ずるく立ち回って、まんまと安房の四郡を自分のものにした悪人なのだ。その息子義成(よしなり)も同様に上総(かずさ)下総(しもうさ)の大部分を着々と浸食している。もうこれ以上放ってはおけん。一息に叩き潰さねばならん」

憲重(のりしげ)「その通りでございますな」

定正「しかし、当家だけの力ではやや心許ないのも事実なので、私はこのさい、同じ管領家である山内(やまのうち)顕定(あきさだ)と和解しようと考えている」

(ここでは、扇谷(おうぎがやつ)山内(やまのうち)がどうして管領家を割ってモメていたのかは説明しません。あんまり話にからみませんし、めんどいでしょ?)

憲重(のりしげ)「おお、それは英断! それさえ成れば、管領どのの武威は再び関東八州にとどろき渡ること間違いなしです」

定正「そうなれば、各国は私たちと軍事同盟を組むはずだ。やすやすと安房を踏みにじってやることができるであろう。憲重(のりしげ)よ、鎌倉の顕定(あきさだ)へ使者に出てくれるか」

憲重(のりしげ)「喜んで!」

こういうわけで、翌日のうちに大石(おおいし)憲重(のりしげ)は鎌倉に向かい、翌日の昼には顕定(あきさだ)の屋敷に着くことができました。交渉の相手は、顕定(あきさだ)の側近である斉藤(さいとう)高実(たかさね)です。

憲重(のりしげ)「こうこう、こういうわけです。共に力をあわせて里見をやっつけましょう。里見がいなくなったあとは、安房と上総の領地を半分コしましょう」

高実(たかさね)「フーン、なるほどねえ…」

高実(たかさね)は奥に行って顕定(あきさだ)とこの件を相談しました。顕定(あきさだ)は、この戦がうまくいったら、この貸しをもとに今後の主導権を握れるだろうと考えたので、和解を受け入れることにしました。

顕定(あきさだ)「よし、使者に会ってやる」

この後、使者と顕定(あきさだ)の面会はトントン拍子に行き、両管領の和解はここに成立しました。顕定(あきさだ)は、戦が近づいたら五十子(いさらこ)城に軍勢を派遣すると約束しました。

定正は、この交渉がうまくいったことを喜び、さっそく各国に使者をやって、今回の戦争に協力するよう要求しました。定正(さだまさ)顕定(あきさだ)両管領の連署が記された文書での要求ですから、これは強力です。


以下、それぞれの国で、要求を受け取った人々がどう反応したかを列挙します。

白井の長尾(ながお)景春(かげはる)… やります(定正と最近和解したから)

糟谷(かすや)巨田(おおた)持資(もちすけ)入道… やります(家臣だから)

(えびら)大刀自(ビッグママ)… やるよ!(蟹目(かなめ)のカタキ討ち!)

常陸(ひたち)左武(さたけ)鹿島(かしま)… やります(結局あとで来なかったけど)

石浜の千葉自胤(よりたね)… やります(毛野・小文吾に恨みアリ)

下総の千葉孝胤(たかたね)… 母が最近死んだので、喪中につき不参加

甲斐の武田信昌(のぶまさ)… やります(ただし、北条にも警戒が必要なため、別の大将が行く)

相模(さがみ)の三浦義同(よしあつ)… やります(ただし、北条にも(同上))


ちょっと複雑な反応をしたのは、許我(こが)の足利成氏(なりうじ)です。彼に今回の話を伝えに来た使者は、大石憲儀(のりかた)です。

成氏(なりうじ)「今回の話はバカにしている。ワシは協力せんぞ」

そもそも昔、結城の合戦があったときに、兄弟の春王(はるおう)安王(やすおう)を殺されたという恨みがあります。このとき関東管領は将軍側、つまり殺した側でした。その後も、たびたび管領とは小競り合いを繰り返していました。今でこそ形式上は和睦しているものの、よい感情などは持ちようがありません。

定正のほうでもこれは分かっていますから、成氏には特別な条件を提示しました。すなわち、この戦いで「総大将」となってもらう件、また、戦いが終わったら、もとのように鎌倉公方(くぼう)として鎌倉に戻ってもらう件です。

それでも成氏はやる気が湧きません。

成氏(なりうじ)「大体、別に里見にも犬士たちにも恨みはない。里見などは、結城の戦いではよくがんばってくれた忠臣ではないか」

しかし、成氏(なりうじ)の側近の横堀(よこほり)在村(ありむら)は、主君にこう提案します。

在村(ありむら)成氏(なりうじ)さま。この話は案外悪くありませんぞ」
成氏(なりうじ)「なぜだ」
在村(ありむら)「恐れながら… 父君(持氏)や春王さまたちが亡くなった件は、直接は扇谷(おうぎがやつ)たちのせいではありません。むしろ、無理な戦いをはじめた持氏(もちうじ)さまの自滅と言うべきでした。その後の管領との戦いも、これらの不幸な誤解の積み重ねであったと私は思います」
成氏(なりうじ)「…」
在村(ありむら)「今回の話を、現実的に考えてみましょう。まず、軍の規模からいって、我々連合軍が里見に勝つことはまず間違いありません。成氏(なりうじ)さまは、その戦いの総大将をつとめられるのですよ」
成氏(なりうじ)「…うむ」
在村(ありむら)「鎌倉公方に返り咲けるのですよ」
成氏(なりうじ)「うむ」
在村(ありむら)「戦後の発言権も強くなることが予想されます。たとえば、当家に功臣があったばあい、安房を領地として手に入れることができるでしょう。定正たちはこれを断れるはずがない」
成氏(なりうじ)「そうだな」
在村(ありむら)「もうひとつ、犬塚信乃をおぼえていらっしゃいますか」
成氏(なりうじ)「誰だっけ」
在村(ありむら)「ニセの村雨(むらさめ)を持ってきた男ですよ。彼が、今では安房に仕える家臣のひとりなのです」
成氏(なりうじ)「あっ、思い出した!」
在村(ありむら)「もともとは我々の家臣であった犬飼見八(けんぱち)(今は現八だそうですが)も、信乃とともにここを逃亡して、やはり今では里見の家臣です。どうです、これでなお、里見のほうに肩入れできますか」
成氏(なりうじ)「できないな!」

こんな感じで、成氏は説得されてしまいました。結局、一緒に里見を征伐することを使者に約束しましたとさ。

どうして在村(ありむら)がこんなに熱心に主君を説得したのかというと、あらかじめ使者の憲儀(のりかた)からタンマリと袖の下をもらっていたからです。カネ次第で、黒を白といいくるめることができる在村(ありむら)は有能ですね。まったく感心はできませんが。

里見の滅亡をはかる連合軍は、着々とその規模を増していきました。ゆうに数万の兵が集まることになりそうです。これからどうなることでしょう。


そういえばあとひとつ。結城(ゆうき)成朝(なりとも)にも例の連合軍の誘いは行ったのですが、さすがに断りました。「ちょっと領内がゴタゴタしていて…」だそうです。まあ、最近、里見と仲良しになりましたからねえ。


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