里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

106. 名馬・名刀・名ジジイ

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■名馬・名刀・名ジジイ

義実「ほらほら、矠平(やすへい)の家族もみんなここにおいで」

義実は、音音(おとね)曳手(ひくて)単節(ひとよ)、またその子供たちをそばに呼びました。みんな恐縮しています。

義実「矠平(やすへい)夫婦の忠義、そして嫁たちの孝行が優れているからこそ、災いが転じてこんな奇跡が起こったのだ。力二と尺八がこうして生まれ変わったのも、これらの応報である。まことにあっぱれ」

義実は、このファミリーをみんな、里見家の年金をあたえて養うことに決めました。また、力二と尺八は、10歳になるのを待って、義実の孫たちの付き人に採用することにも決めました。

音音(おとね)「我々の本来の主人である道節さまがいまだに里見に仕えないのに、我々が先にとは、後ろめたくて仕方がありません」

義実「いいや、これは、順番とは関係ないよ。私はお前たちの忠節に感動し、それを褒めているだけのことなのだ。遠慮はいらない」

音音(おとね)と嫁たちは、ありがたさにむせび泣きました。


親兵衛「さて、南弥六(なみろく)の尋問を続けようと思いますが…」
義実「おっと、そうだった。うん。頼む」

親兵衛は南弥六(なみろく)のほうを向いて、キッと厳しい顔を見せました。

親兵衛「こら南弥六(なみろく)よ。お前は須崎の無垢三(むくぞう)の孫らしいな」
南弥六「そうです」
親兵衛「私はな、杣木(そまきの)朴平(ぼくへい)のひ孫なのだぞ」
南弥六「えっ。無垢三(むくぞう)と一緒に行動して神余さまを殺してしまったという…」
親兵衛「そうだ。南弥六よ、祖父の罪をあがなおうとした決意まではよかったが、手段がまったく間違っていたではないか。素藤(もとふじ)なんかにたぶらかされおって。神余どののことを考えるならば、ここにいらっしゃる大殿に素直に訴え出ればよかっただけなのだ」
南弥六「ぐぐっ、その通りだ。オレは今まで男を磨いてきたつもりだったが、井の中のカエルもいいところ、全く愚か者だったということだ。死んでお詫びするッ」

南弥六は手近な木の幹に頭をぶつけて死のうとしました。親兵衛はそれをとどめ、説得しました。

親兵衛「バカなことをするな。私がお前の命を救うよう頼んでやる。今からまっとうな人間になれ。男なら、立ち直って立派になってみせろ」

南弥六は男泣きに泣き、罪をつぐなう、と誓いました。

義実「オッケー、あとは、義成によろしく計らうよう頼んでおこう」


花を買いに行かせていた萌三(もえぞう)が、お使いをすませて戻ってきました。

義実「あっ、そういえば、姫の墓参りだったね。よしよし、これはこの辺でキリをつけて、あとは墓参りをしにいこう。捕らえた男たちは、ここから城に連れて帰っておいて。音音(おとね)と嫁たち、子供たちも、ふもとまで誰か送っていって、今日は大山寺に泊めておいてあげてくれ」

今から墓参りについていくのは、親兵衛と矠平(やすへい)、そして当初の供の家来たちと、照文です。

義実「っていうか、照文も来たんだね」
照文「お許しください。殿のお付きがたった二人というのが、死ぬほど心配だったのです」
義実「うんうん、いいよ。ちょうど、呼ばなきゃと思ってたところだよ。ほら、見てごらん。彼が、行方不明になっていた犬江親兵衛だよ」
照文「えっ、親兵衛くんが! 本当ですか。どこです」
義実「だから、これだよ」
照文「…えっ。で、デカくないスか」

照文が、このでかい9歳児が親兵衛なのだと納得するまでに、前と同じような問答を繰り返さなければいけなかったことは省略しましょう。

ところで、照文が山に登ってきた理由はもうひとつありました。義実に一頭の駿馬を持ってきたものがあるという知らせです。

照文「次丸(つぐまる)さまからのプレゼントなのです。城に大殿がいらっしゃらないので、ここの(ふもと)まで苫屋(とまやの)八郎(はちろう)が曳いてきたそうです」
義実「おお、孫め、かわいいな。まあ、氏元か誰かのアドバイスなんだろうけど」

親兵衛「馬がございますか。大殿、できましたらそれを私に貸してください。それに乗って今すぐ館山に行き、御曹司を救って参ります」

義実「うーん、気持ちはうれしいけど、それは城に帰ってから考えよう。あの事件のことは、急いではいけないのだ」

親兵衛「そうですか…」


そういっている間に、一同は、伏姫のいた洞穴のあたりにつきました。この土地を隔てていたいつかの谷川はすっかり枯れていて、やすやすと渡ることができました。当時のいろいろなことが頭に浮かび、義実は思わず涙ぐみました。

親兵衛「この洞穴に私は住んでいました」
義実「寒くなかった?」
親兵衛「汗をかくくらい暖かかったですよ。夏は涼しくて、虫も出ないのです」
義実「それもまた、伏姫の霊力のおかげか…」

姫と八房の埋められている塚には花が絶やされておらず、今でも線香の煙が細く上がっています。矠平(やすへい)ファミリーが世話を欠かしていない証拠です。義実は持ってきた花を生けてそれに清水をそそぎ、新たに香をくべると、時間を忘れて姫の菩提(ぼだい)廻向(えこう)しました。この塚の近くには、力二と尺八の首も埋められていましたので、それらにもついでに参りました。岩ばった山々の間には雲が湧き、風が松の木々をサワサワと揺らしました。

親兵衛もまた、姫の霊に心で話しかけました。「(姫神さま、親兵衛は行って参ります)」

やがて祈りが果てると、義実は、ついでに山頂の観音堂も礼拝していこうと提案しました。

照文「えー。あんまり遅くなると、山を下りるときに暗くなっちゃいますよ」
義実「それはそうなんだけど、今回の奇跡は神のおかげなのだから、あそこもおろそかにはできないよ」
照文「うーん、まあ、そうですね」

一同は、険しい道をたどり、峰の上に登っていきました。視界には、安房(あわ)上総(かずさ)どころか、遠く伊豆(いず)の海までが見渡されました。夕暮れの中、カモの群れが飛んでいました。

観音堂もまた、建てられて二十年以上も経っているのに、掃除が行き届いてピカピカでした。一同はそこでも祈りをささげ、やっと義実は今日の目的を達しました。

義実「うーん、充実。じゃあ今から山を下りよう。照文、親兵衛、いろいろお互いにつもる話もあるだろう。私にかまわず、いろいろ喋りながら歩くといいよ。私もそれを横で聞いていたら楽しいし」

照文・親兵衛「わっ、ありがとうございます。つい遠慮してたんです」

照文と親兵衛が今までの冒険について話を交換しながら歩くのは、聞いていて胸がおどるように楽しく、一同は歩く疲れをおぼえませんでした。

山の中腹ほどまでくると、すっかり暗くなってしまいました。しかし、主人が遅いのを心配した家来たちが、かがり火を持ってこのあたりまで迎えに来てくれましたので、迷子にはならずに済みました。そしてやっと、(ふもと)の河原まで着くことができました。

義実「苫屋(とまや)よ、次丸がプレゼントしてくれたという馬を、見せてくれ」
苫屋「ははっ」

連れてこられた馬は、いかにも立派な体格で、体の表面は、ウロコのような、波のような模様に覆われていました。

苫屋「当国の蒼海巷(あおみこ)から出た馬で、青海波(せいかいは)、と名付けられたものです」
義実「うん、いい名だな。親兵衛」
親兵衛「はっ」
義実「この馬をどう見る」

親兵衛は、馬の目、背、腹、脚、鼻の穴、口の中、ヒザの骨などについて、実に的確な評価をしました。「これは紛れもない名馬です。千里とは言わないまでも、百里の馬と呼んでよいでしょう」

義実「うむ、確かな知識だ。どうだ、乗ってみるか」
親兵衛「ぜひ!」

親兵衛は、ヒラリと青海波に飛び乗りました。なかなか気性の激しい馬のようですが、見事に二、三週とその場で回し乗りして、やがて下りると義実の前でペコリと礼をしました。周りの家来たちが驚きの声をあげました。

義実「(ちょっと試してみたのだが、まさか乗馬までマスターしているとはな… こいつ、計り知れん)」

義実「よし、その馬、あげるから」
親兵衛「ありがとうございます! この場でもうひとつ、お願いがございます」
義実「んー」
親兵衛「今から館山(たてやま)に走って、御曹司を救うことをお許しください!」
義実「さっきも言ったけど、ずいぶん急ぐよね。明日とかじゃだめなのかい。城に帰れば、お前の祖母の妙真(みょうしん)もいるんだよ」
親兵衛「肉親の情より、臣としてのつとめが優先です。義道さまがつらい目に遭っているのを、一刻も長引かせたくありません。また、伏姫さまは、私にさっき、『里見の御曹司を救いなさい』とおっしゃったのです。兵は拙速を(たっと)ぶとも申します」

義実はついに折れました。「分かった、やってみるといい。何か作戦があるのだな」
親兵衛「作戦というほどではないですが… まあ、方針は決めておいて、あとは臨機応変に」
義実「兵をどれほど貸せばいい」
親兵衛「うーん、じゃあ、二人」
義実「二人!?」
親兵衛「国主の使いとして城に入るつもりなのです。だから、若党と、馬の口つきが一人づつ」
義実「ほう…」

義実は家紋のついた礼服を親兵衛に貸し、若党には苫屋(とまや)を任命しました。

義実「口つき(馬をひっぱる係)は…」
矠平(やすへい)「私がぜひ」
義実「えっ、冗談でしょ。馬について走るんだよ。体力いるんだよ」
矠平(やすへい)「(目をむいて)大殿は私をあなどっておられる。一見シワシワに見えても、神の食べ物で養われた体ですぞ。たとえ千里の馬であろうと、今の私は余裕でついて行けます」
義実「よしよし、すまなかった。じゃあ任せる!」

義実は、親兵衛が腰に差す刀についても、ちょっと立派である必要があると思いつきました。

義実「この刀を持っていけ。我が家の重宝には大月形(おおつきがた)小月像(こつきがた)という両刀がある。そのうち小月像(こつきがた)には、夜道に迷わないというアイテム所持効果があるのだ。本日の功を賞して、これをとらせる」
親兵衛「ありがたきしあわせ!」

義実「あと、矠平(やすへい)にも刀がいるな」
矠平(やすへい)「私は仕込み杖を持っていますが…」
義実「国主の使いにはふさわしくないな。敵地だから危険でもある。私のこの脇差を持っていけ」
矠平(やすへい)「と、と、とんでもない」
義実「親兵衛に六年仕えた褒美だよ。受け取ってくれ。ただし、お前はまだ道節に仕える身でもあるから、私から直接渡すのはよくない。親兵衛にこれをあげるから、親兵衛が矠平(やすへい)にあげてくれ」
親兵衛「だってさ。矠平(やすへい)、ありがたく拝領しようよ」
矠平(やすへい)「(感動で声がでない)」
音音(おとね)「ヒューヒュー。かっこいいわよアナタ! ちゃんと仕事してくんのよ。恥かかせんじゃないわよ!」

さて、あまり時間を無駄にできませんから、三人はもう早速、出発の準備を整えはじめました。正確には、照文が陣中の義成(よしなり)にこの件を報告に行きますから、四人です。

義実「普通はお寺の周りで馬に乗るのはよくないんだけど、今回は特別に住職に断っておくから、ここでぜひ、騎馬姿になって出て行くところを見せてくれ」
親兵衛「はいっ」

少々の着替えタイムがあり、家来が「準備完了です!」と義実たちに告げました。

たくさんのかがり火の下、親兵衛の騎馬姿を見た一同は息を呑みました。盛装に身をつつんだ親兵衛は、今までの二倍ほどの大きさに見えました。また、矠平(やすへい)こと姥雪(おばゆき)与四郎(よしろう)は、70歳近いとは思えぬ堂々たる立ち姿で、子を背負う母虎のような凄みがありました。

義実「よおし、行ってこい。吉報を待っているぞ」

親兵衛と矠平(やすへい)は、ぐっとサムアップのポーズを取ると、闇夜の中を飛び出していきました。苫屋と照文がそれを追う提灯の明かりが、遠くかすかにまたたきました。


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