里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

77. 小文吾と荘助の再会

前:76. 船虫の悪運

小文吾(こぶんご)荘助(そうすけ)の再会

犬川(いぬかわ)荘助(そうすけ)は、庚申(こうしん)堂で女を助けた礼として、彼らの家に宿をとらせてもらえました。しかし、いろいろと引っかかるところがあって、寝付けません。

荘助「なんかおかしい気がする」

あらためて部屋の調度を見渡してみると、どうにもチグハグな印象です。

荘助「家はボロボロに見えるのに、妙に食器は立派だった。しかし、ブランドがバラバラなんだよな。この布団は絹の高級品なのに、枕なんて、これ、ただの木切れじゃないか」

これらの手がかりから、荘助は、ここは盗賊の隠れ家なのだろうと推測しました。

荘助「たぶんそうだ。さっきの女の人も盗賊の一味で、捕らえられてたところを間違って私が助け出してしまったんだな。これは判断ミスだった。このまま寝ちゃうのは危険だなあ…」

荘助は、寝たフリだけをして、ふすまの向こうから会話が漏れ聞こえてくるのに耳をそばだてました。

船虫「…さっきまで、私は捕らえられてムチで打たれていたんだよ。小文吾って男を殺そうとして失敗したんだ」

酒顚二(しゅてんじ)「だれだ、小文吾って」

船虫「私の前のオトコを、殺したやつさ。たまたまこの前の牛相撲のときに小文吾を見つけたんで、あれ以来チャンスを狙ってたんだ。最近、アイツは目が見えなくなりやがった。だから、マッサージ師のフリをして近づいて、もう一歩で刀を突きさせるところまで行ったんだ。なのに、あいつは妙に勘が鋭くて、私の殺気がばれちまった」

酒顚二(しゅてんじ)「ほう、惜しかったな」

船虫「で、私は、そのまま捕まって『神慮まかし』とかいうふざけたリンチにあってたんだ。たまたまさっきの旅人が何も知らずに私を助けたから、今もこうして生きてるってワケ」

酒顚二(しゅてんじ)「それじゃあ早速仕返しをしてやろうじゃないか。お前をそんな目にあわせた奴らは皆殺しだ」

船虫「それなら、小千谷(おじや)の石亀屋の連中をみんな殺してちょうだい。小文吾のやつもまだそこにいるよ」

酒顚二(しゅてんじ)「よしよし。さっきの旅人も、殺しちまうか。何かのはずみでこのアジトがばれると厄介だからな。身なりもよかったから、結構カネを持ってそうだ。武者修行っぽい雰囲気もあるが、10人以上でいっぺんにかかれば()れるだろ」


荘助は、これらの会話を余さず聞き取ることができました。船虫たちは声を潜めながら喋っていたのですが、不思議なことに、荘助の持っている「玉」が、これらの小さな声を増幅して荘助の脳内に直接送ってくれたのです。この玉の機能、もう何でもアリですね。

おかげで荘助は先回りしてこのアジトを忍び出ることができました。荘助を殺しに来た盗賊たちは、客の寝床がカラッポであることに驚きました。

酒顚二(しゅてんじ)「なんだと、逃げちまっただと。俺たちの話し声でも聞こえたのかな。ちっ、今の話をチクられると面倒だ。おいお前ら、ヤツを探して追いがてら、今すぐに石亀屋を襲撃するぞ!」

子分たち「おう!」

船虫「ちょ、ちょっと。全員で出ていくのはやめておくれ。あの旅人がこっちに戻ってくるかもしれないじゃないか」

酒顚二(しゅてんじ)「ふん、そうだな。じゃあお前がここで留守番しろ、媼内(おばない)

媼内(おばない)と呼ばれた男は、甲斐の泡雪(あわゆき)奈四郎(なしろう)の子分だったあの媼内(おばない)です。主人から奪った金をすぐに使い果たし、今はこんなところで盗賊の子分をしています。

媼内(おばない)には一丁の鉄砲が預けられました。「任せてください酒顚二(しゅてんじ)さん。鉄砲さえあれば、ここには誰も近づけさせません」

こうして盗賊の一行は小千谷(おじや)を目指してドヤドヤと走っていきました。その後ろを闇に紛れながら秘かに追いかける者があります。荘助です。荘助は石亀屋の場所を知りませんから、こうして追っていくことにしたのです。

荘助「(確かにあいつらは小文吾(こぶんご)と言った。この近くにあいつがいるのだ。しかし、あいつの目が見えない? どういうことだ。確かめないと…)」


さて、盗賊たちは石亀屋につきました。そして門をバンバン叩きます。

酒顚二(しゅてんじ)「おら、おら! 次団太(じだんだ)小文吾(こぶんご)、出てこいや! 出てこねえと、家の中の連中は皆殺しだぞ!」

石亀屋の従業員たちは皆ふるえあがりました。昼間のマッサージ女の仲間の仕返しに違いありません。次団太は驚いて、小文吾だけでも裏口から逃がそうとしはじめます。

盗賊「おら、こんな扉、叩き壊してくれる!(バン、バン)」

そのとき、荘助が槍をもって風のように現れ、扉を壊そうとした盗賊を脇から一突きに殺しました。そうして大声で叫びます。

荘助「犬田よ、あるじよ、驚くな。犬川荘助ここにあり! 表の連中は私にまかせてくれ、あなた達は裏口に用心しろ!」

そうして驚くべき早業で、さらに二三人の賊を突き殺します。猛虎が羊の群れに放たれたようなもので、盗賊たちは恐れて浮足立ちました。

小文吾と次団太はこれに勢いを得て、宿に突入してきた賊たちと戦いはじめ、次々と斬り殺しました。次団太は、小文吾の目が治っているのでビックリしています。

酒顚二(しゅてんじ)「ちくしょう、あの旅人は敵のまわし者だったのか。お前たち、ひるむな! こちらのほうが大勢だ!」

荘助は酒顚二(しゅてんじ)と戦い始めました。一上(いちじょう)一下(いちげ)()を尽くす犬士のワザに盗賊のチンピラが(かな)うはずはなく、ついに荘助の一撃にノドを貫かれて絶命しました。その後もほとんどの賊は逃げられずに退治され、二三人の人間だけがアジトに逃げ帰っていきました。

荘助「犬田どの!」
小文吾「犬川どの! 再会できてうれしいぞ。どうやってここの危機を知ったんだ。どうしてここにいるんだ」
荘助「話せば長いから、それはそのうち。それにしても、目は大丈夫なんですか。見えなくなったというウワサを聞いたんだけど」
小文吾「確かにそうだったんだが、玉の力で治ったのさ」
荘助「私も、玉の力で今回の襲撃事件を知ったんです。これもみな、神霊の加護なんでしょうね」
小文吾「まったくだな」

小文吾は、次団太に犬川荘助を紹介しました。次団太「あなたが小文吾さんのご友人か。たいしたものだ…」

荘助「ありがとうございます。さあ、まだ終わっていませんよ。今から盗賊のアジトを潰しに行きましょう。連中をすべて捕まえ、今後の禍根(かこん)を断つのです。船虫という盗賊の妻は、特に放っておけない」

小文吾「船虫!? やはりあの女は船虫だったのか」
次団太「あの女は庚申(こうしん)堂にぶらさげてあったはずだが」

荘助「私が、あの女を逃がしてしまったのですよ。ウソの身の上を聞かされて、うっかり同情してしまったんです。アジトは遠くありません。やつらが逃げてしまう前に、行きましょう」

二人の犬士と次団太は急いでアジトに駆けつけましたが… 目の前には、明け方の空の下、メラメラと燃える建物があるばかりです。

荘助「遅かったか!」

その場には、小物の盗賊が二人ほど、逃げかねてオタオタしているばかりでした。これを捕まえて絞り上げると、名前をそれぞれ溷六(どぶろく)穴八(あなはち)と名乗りました。

小文吾「おいお前ら、船虫はどうした」

溷六(どぶろく)穴八(あなはち)「荷物と鉄砲をもって、媼内(おばない)と一緒に、東のほうに逃げました。めっちゃ素早かったです…」

次団太の手下たちがそれを追って走っていきましたが、小文吾たちはここに残って溷六(どぶろく)穴八(あなはち)をさらに締め上げました。そうして、磯九郎(いそくろう)を殺したのも酒顚二(しゅてんじ)と船虫だったことが判明しました。やがて船虫を追っていた手下たちは、あきらめて帰ってきました。

次団太「女のほうに逃げられたのは残念だが、男のほうだけは倒すことができた。一応、磯九郎(いそくろう)のカタキはとった、としておこう…」

荘助「ところで、この溷六(どぶろく)、不思議と犬田どのに似ている気がしますね」
小文吾「やめてくれよ。しかし、それなら、こっちの穴八(あなはち)のほうは、犬川どのに似ているぜ」
荘助「顔は同じでも、運命は違うものなんですね。なんだか妙な気持ちになってきます」
小文吾「どこに身を置くかで、人の運命は変わるものなのだな…」


さて、今回の盗賊たちの襲撃事件は、次団太たちによって役人に報告され、首謀の酒顚二(しゅてんじ)はさらし首と決まりました。生き残った盗賊連中も、すべて逮捕・連行されていきました。

ある日、城から二挺のカゴが石亀屋に届けられました。「犬田小文吾と犬川荘助に特別に話したいことがあるので、片貝(かたかい)の屋敷に招きたい」とのことです。ちょうどそのとき、小文吾と荘助は、今までの自分のいきさつを教えあい、互いに驚いたり感心したりしていました。小文吾は、病み上がりの身づくろいも終わったのでサッパリした格好です。

使い「老中からのお招きです」
小文吾・荘助「えっ、我々だけが屋敷に来いって。何かな」
次団太「二人は手柄があったから、特別にほめてくれるんじゃないか」

小文吾「面倒だなあ。放っておいてくれればいいのに。オレは、今から犬川どのと一緒に甲斐の指月(しげつ)院に戻るって決めたところだったんだ」
使い「越後領主である長尾殿の母君、(えびら)大刀自(おおとじ)みずからの命令なのです。必ず従っていただきたい」
荘助「そんな偉い人なら、礼服を着なくちゃ。ぼくら、持ってませんよ」
使い「それも準備しています。ご安心を」

どうにも断る(すべ)がなさそうです。二人は仕方なく礼服に着替えると、カゴに乗せられて片貝に向かいました。連れられていったのは、老中の稲戸(いなのと)津衛(つもり)由充(よりみつ)の館にある書院の間です。

稲戸(いなのと)「よくいらしてくださった、お二人とも」

二人「はあ」

稲戸(いなのと)「お二人の武勇は聞かせてもらいました。実に優れた人たちです」

二人「はあ、どうも」

稲戸(いなのと)「しかし… ご免! 者ども、二人を捕らえよ!」

二人「えっ」

ふすまの向こうから兵がどっと出てきて、荘助と小文吾をおし包みました。二人は兵たちを蹴ったり投げたりして抵抗しましたが、不意をつかれて、大勢だったこともあり、簡単に縛り上げられてしまいました。

二人「何コレ?」



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