里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

71. ひさしぶり丶大法師

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■ひさしぶり丶大(ちゅだい)法師

出来介(できすけ)夏引(なびき)の姿を見て呆然としています。

出来介「あ、あれっ。甘利(あまり)様は、何か忘れ物でもあって戻ってきたんですか」

夏引「何をわけのわからないこと言ってるの」

出来介「さっき、もう甘利(あまり)尭元(たかもと)様が来て、信乃(しの)浜路(はまじ)さまを逮捕して帰っていきましたよ」

夏引「そんなバカなことがありますか。あんた、キツネにでも化かされたの。信乃と浜路を連れて行ったですって? すぐに追って、連れ戻してらっしゃいよ!」

後ろに甘利(あまり)尭元(たかもと)が追いつきました。

甘利(あまり)「黙れ、夏引。出来介とやら、今の話をちゃんと説明しろ」

出来介は平伏しておそるおそる、

出来介「ついさっき、武士と雑兵の一行が来たんです。武士は自分が甘利(あまり)尭元(たかもと)だと名乗ったので、私は信じたんです。その武士は、だんな様(木工作(むくさく))の死体を見て、これは刀傷ではなく銃創だと言いました。また、刀についた血は新しすぎて変だとも言いました。でも、せっかく訴えがあったのだからと言って、信乃を捕らえて帰ったのです。よくわからないんですが、浜路さまも取り調べるからといって連れて行きました。あと、浜路さまが拾われたときに着ていた衣装も持っていきました。夏引さまがいないのはおかしいと思ったんですが、事情があるからと言われたんです。これで全部です。信じてください」

甘利(あまり)「ほほーう。そのニセモノは、まるで、私どもから奪還したかのような印象だな… しかし、それは一旦置いておいて、その木工作(むくさく)の死体を私も点検させてもらおう。夏引、出来介、そこを動くなよ」

夏引と出来介は、震えながら甘利(あまり)が死体を点検するのを見守りました。

甘利(あまり)「なるほど、なるほど。おい者ども、ここの縄をかけよ」

夏引・出来介「(雑兵に縄をかけられながら)な、なんで」

甘利(あまり)「たしかに、この死体の傷は刀ではない。鉄砲によるものだ。さらに、わざわざこんな近くに死体を捨てて、わざと見つかるようにしたのも変だ。これらから()すに… お前らが木工作(むくさく)を殺し、信乃とやらに無実の罪を着せようとしたことは明らかだ。すべて白状せずには済まさんぞ。者ども、こやつらを打ち懲らしめよ!」

夏引と出来介は、容赦なく背中をバッシバッシとたたかれました。

出来介「話します、みんな話します!」

出来介は泣きベソをかきながら、夏引に浜路を嫁にやるとそそのかされて、信乃の刀にニワトリの血をつけたことを白状しました。これを聞いて、夏引もあきらめて下のような事情をすべて白状しました。

〇 自分は泡雪(あわゆき)奈四郎(なしろう)と浮気していた
〇 それに感づいていた浜路(はまじ)を家から追い払いたかった
〇 奈四郎(なしろう)木工作(むくさく)と口喧嘩して撃ち殺した(これは想定外だったのだけど)
〇 奈四郎(なしろう)と共謀で、信乃に木工作(むくさく)殺しの罪を着せて排除し、浜路(はまじ)も売り払おうとしていた

甘利(あまり)はさっそく信乃らを奪った曲者を指名手配する手続きをすると、夏引と出来介を連行して牢屋に入れました。木工作(むくさく)の葬式は村に任せました。


さて、出来介(できすけ)を騙して信乃と浜路を奪還したニセ甘利の一行は、泡雪たちも密会に使った、例の指月(しげつ)院を目指して急ぎました。その間、ニセ甘利と信乃はずっと

無事に寺に入り、荷物をすべておろし、浜路を奥座敷に隠すと、ニセ甘利は信乃から預かっていた刀を返しに行きました。

信乃「これはどういうことなんだ、甘利、いや、どの!」
道節「はっはっは。驚いたか。今にもっと驚くぞ。ここの住職に会ったらな」

二人は住職の居室を訪ねました。そこには、丶大(ちゅだい)法師と蜑崎(あまさき)十一郎(じゅういちろう)照文(てるふみ)が待っていました。信乃は声もでないほど驚きました。

丶大(ちゅだい)「ほほほ、珍客じゃな」
信乃「いや、あの。どういうことなんです。自分にはまだワケがわかりません」
丶大(ちゅだい)「うん。ずいぶん久しぶりだから、順を追って話していこう」

四年前、丶大(ちゅだい)法師は、犬塚(いぬつか)信乃(しの)犬田(いぬた)小文吾(こぶんご)犬飼(いぬかい)現八(げんぱち)の三人が大塚からなかなか妙真たちの待つ市川に帰ってこないので、様子を見るために単身で大塚に行きました。そこで、この三人が、無実の罪で死刑になりそうな犬川(いぬかわ)荘助(そうすけ)を救出するために活躍し、戸田川を渡って逃げて行ったことまで調べることができました。

丶大(ちゅだい)「最初、犬川どのと犬塚どのはさらし首になったと聞いたので驚いたものだが… それを確認しにいったところ別人だったので、非常にホッとした」

その後、市川にもどる暇もなく、三人の犬士(けんし)たちの行方を探して、丶大(ちゅだい)下総(しもうさ)常陸(ひたち)下野(しもつけ)、奥の白川(しらかわ)、越後、と二年近く歩き回りました。

丶大(ちゅだい)「ここ甲斐に寄ったとき、この指月(しげつ)院にしばらく滞在させてもらった。その間に住職がトシで亡くなったので、成り行きで私がここの住職を継ぐことになったのだ。そのとき、日本中を歩いて犬士を見つけるのも、日本中を歩いている犬士たちがここに立ち寄るのも、可能性としては同じくらいかと思ったので、わたしはここに落ち着いて旅人たちを定点観測することに決めたのだよ」

この丶大(ちゅだい)の方針は大当たりで、その後三年ちかくの間にここを通りがかったのは、里見家の指示で犬士捜索チームを組んでいた蜑崎(あまさき)十一郎(じゅういちろう)照文(てるふみ)、そして犬山道節と犬川荘助でした。なるほど、ウロウロする人たちを探すには、一か所で待っていればよかったわけですね。アッタマいい。

信乃「ちょっと待ってください、丶大(ちゅだい)様は、まだ荘助とも犬山(道節)どのとも面識はなかったはずですよね。よくわかりましたね」

丶大(ちゅだい)「うん、宿を求めにきたときに名乗ってくれた名前を聞いたらピンと来てね。いろいろカマをかけたら、犬士(けんし)だったことが分かったんだ。うれしかったねー」

道節「俺と犬川荘助は、荒芽山の戦いではぐれたとき、たまたま二人一緒だったのよ。四国あたりまで旅をして、そこから戻ってきて、甲斐の国で丶大(ちゅだい)様に会うことができた」

信乃「(出会い方が若干雑になってきている気がするが、まあいいか…)」

丶大(ちゅだい)「それ以来、ここを拠点として、犬士たちと照文は交代しながら各国を旅して犬士の捜索をする、というスタイルができたんだよ。(今は荘助が旅に出ている番。)私も近所をウロウロして旅人のウワサなんかを調べていた」

丶大(ちゅだい)「犬塚どのが思わぬ近所に滞在しているという手がかりは、ここの寺男の無我六(むがろく)と、小坊主の念戌(ねんじゅつ)が見つけてくれた。たいへんなお手柄だ。この寺が普段からカラッポなのを利用して、ある武士と女が浮気の密会に使った。その二人の密談を、念戌(ねんじゅつ)がみんな聞いて記憶していてくれたのだ。その武士と女とは、他ならない、泡雪奈四郎と夏引だった。犬塚どのの危機を知ることができたのはこのおかげだ」

信乃「夏引(なびき)さんと泡雪(あわゆき)どのが… そうだったのですか。ところで、念戌(ねんじゅつ)君はいいですが、無我六(むがろく)さんのお手柄とは?」

丶大(ちゅだい)「もちろん、何も考えずに、よこしまな二人を寺の一室に案内したことじゃないか。何も考えないというところがよかったよね。有能な人もそうでない人も、なにか役に立てるタイミングというものはあるんだね」

信乃「な、なるほど」

道節「念戌(ねんじゅつ)君が聞いた密談の内容を聞いて、俺が今回の奪還作戦を企画した。はじめは甲斐の国主に信乃の無実を訴えようかと思ったが、たとえ主君が正しくても、取り巻きがそうでもない場合には、こんな訴えは握りつぶされてしまう可能性もある。だから、ちょうといいタイミングを偵察しておいて、さっさとニセ代官になって信乃を奪還してしまうことにしたのよ」

信乃はここまでの話に感動して涙を流しました。そして、自分が甲斐に滞在していた事情をすべて丶大(ちゅだい)たちに説明しました。ただし、婚約者だった浜路の霊がここの浜路に乗り移って云々、という件だけは、恥ずかしいので省略しました。

信乃「ところで、照文さまは今、犬士(けんし)捜索チームを組んでいるんですか?」

照文「うん。これは里見様の命令で行っている。市川で起こったことを、そういえば犬塚どのは知らないのだったな…」

照文は、市川で犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)が神隠しにあってしまったことを告げました。そして、妙真が現在安房に避難して里見家に守られて住んでいること、また、犬田小文吾の親で親兵衛(しんべえ)の祖父でもある文五兵衛(ぶんごべえ)が、病で死んだことも告げました。

信乃「自分たちがいない間に、そんなにたくさんのことがあったのですか。親兵衛(しんべえ)のことが心配だ。また、文五兵衛(ぶんごべえ)どののことは痛ましい限りです」

照文「そうですね…」

照文は、気をとりなおしたように

照文「でも、まだいいニュースもあるのですよ。とてもいいニュースです。あの、浜路(はまじ)姫のことなのです」


信乃「?」


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