里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

51. 荒芽山の戦い

前:50. 四犬士が老夫婦の仲人になる

荒芽山(あらめやま)の戦い

管領扇谷(おうぎがやつ)定正(さだまさ)を狙った犬山道節(どうせつ)とその仲間を追討するために、白井の城から約300騎の軍勢がさし向けられました。これを迎え撃つのは、五人の犬士と矠平(やすへい)音音(おとね)の老夫婦、あとは曳手(ひくて)単節(ひとよ)です。

道節(どうせつ)「いや、俺たち五人はともかく、残りのやつらは戦っちゃダメ」

それでもみんな必死の覚悟を決めてしまいましたから、どうにもテコでも動きません。

道節(どうせつ)「ああもう! じゃあこうしよう。矠平(やすへい)音音(おとね)は、この家に立てこもって、しばらく敵を防いでくれ。俺たち五人はすこしの間、裏の山に隠れていて、いい頃になったら左右からワッと敵軍に攻め込む。そうすると、援軍がいるんだと思って敵はビックリするはずだ。そのスキにみんなでとっとと逃げる」

信乃「いい作戦だ。無理がない」

曳手(ひくて)単節(ひとよ)「私たちは」

道節(どうせつ)「そればっかりはどうしたってダメ。聞き分けなさい」
道節(どうせつ)曳手(ひくて)単節(ひとよ)のことは、小文吾に任せてよいか。この馬に乗せてやってくれ。行徳(ぎょうとく)に落ち延びるタイミングも、適当にたのむ」

小文吾「まかせろ!」

こんな段取りになりました。五人の犬士は、裏山に隠れました。嫁たちを乗せた馬は、さしあたり、山の奥のほうに連れていって、木に(つな)げました。老夫婦は家にこもって、竹を材料に、弓と、矢をできるだけたくさん作りました。これでスタンバイです。

やがて、敵の軍勢が家の前に到着しました。

兵たちがまず見たものは、さきに道節が討った、竈門(かまど)三宝平(さぼへい)越杉(こすぎ)駄一郎(だいちろう)の首です。庭の中に、見やすいように(さら)されています。これでまず、兵たちはひるんでしまいました。

敵の隊長は、先日最後まで道節たちを追った、巨田(おおた)助友(すけとも)です。「ひるむな者ども。おい犬山道節よ、その家の中にいるのはわかっているのだぞ。この助友(すけとも)を見忘れたとは言わせん。おとなしく投降すれば、仲間の命だけは助けてやらんでもないぞ」

シーン

家の中から、なんの返答もありません。

助友(すけとも)「卑怯者め、それなら押し入るまでだ。それ、突っ込め」

先兵が何人か近づいてゆくと、家の中から矢がピュンピュンと飛んできて急所をとらえ、近づいた者たちを全員倒しました。兵たちはいよいよひるみました。

助友(すけとも)「ええい、あんなヘロヘロ矢、どうってことはない。大勢で押しつぶせ」

そのうち矢も尽きましたので、矠平(やすへい)音音(おとね)は表に姿をあらわし、仕込み杖と薙刀(なぎなた)で応戦を始めました。

矠平(やすへい)「我々は、犬山の家臣、姥雪(おばゆき)世四郎(よしろう)とその妻だ。道節さまはもうすぐ、援軍をつれて帰ってくるわ。それまで相手してやる」

助友(すけとも)「こしゃくな、飛んで火にいる夏の虫め」

矠平(やすへい)たちは助友(すけとも)がタカをくくったよりもずっと強く、迫る敵をバタバタと斬りたおしました。ですが、さすがに押され始め、何か所かの手傷も負いました。限界が来たら最後は家に火をかけて死ぬつもりですが、もうすこしだけ時間を稼ごう、もう少しだけ…


さて、道節たちは、裏山の草むらに隠れて、この戦いをしばらく見守りました。かなり戦いが激しくなってきたのを見ると、いよいよ敵軍を左右から急襲するために、道節は手をあげて仲間に合図を送りました。「今だ」

しかし、彼の前に立ちはだかった一隊がいました。

「おおかた、こんなことだろうと思ったぞ。小細工を(ろう)しおって。この巨田(おおた)助友(すけとも)の顔を見忘れたとは言わせん。観念しろ」

道節「おのれッ」

ここでも乱戦が始まってしまいました。五人の犬士は道節のそばに駆け寄り、戦力を助友(すけとも)に集中することにしました。はやく倒さないと、矠平(やすへい)たちを助けるのに間に合いません。助友(すけとも)たちは、やがて五人に押されて退きはじめましたが…

犬士たちの後ろから、別の隊がやってきました。

「やあやあ、逆賊どもめ。巨田(おおた)助友(すけとも)ここにあり。覚悟せよ」

五人「あれっ」

敵の作戦は、巨田(おおた)助友(すけとも)に似たやつらを何人も準備して、道節たちをカクランするというものでした。こっちの助友(すけとも)に立ち向かえば、さっき追い払った助友(すけとも)がまた戻ってきます。

そうこうしているうちに、矠平(やすへい)たちの守る家から、火があがりました。

信乃「間にあわなかった!」

火は、まわりの草むらにも移り、秋の山風に乗って、犬士たちの戦う山のあたりまですぐに延焼しました。この火に敵は混乱していますが、味方にとっても同じことです。しきりに頭上に落ちてくる火の粉を払うので精一杯になってきました。逃げ道がありません。

道節「ううむ、火遁(かとん)の術があれば逃げられるのだが… いや、俺ひとり逃げて何になる。あの術は捨てたのだ! しかし、俺もこれで最後かな。せめて矠平(やすへい)音音(おとね)がどうなったかだけでも確かめたかった…」

信乃「あっそうだ、これがあるんだ。たのむ、村雨!」

信乃が、力の限り、村雨(むらさめ)を振るいました。すると、あたり百歩、いや二百歩の範囲までも水がほとばしり、この付近の火だけを一瞬で消してしまいました。ちょうど五人の犬士を囲むくらいの半径です。

信乃「山を越えて逃げるしかない。みんな、続け」

信乃が村雨を使って、火の中に道を作っていきます。これを追って、残りの四人がついていきます。火が消えたところは道となって残り、そこは自然に敵の避難場所にもなりました。ですから、信乃たちは依然として追われます。

助友(すけとも)x3「こらまてー」

現八「同じ顔のやつが三人もいるぞ。つまり、影武者作戦だったってことか。こんなのに引っかかって、情けないな…」

やがて、火にそれほど包まれていないところまで来ました。五人は、追ってくる敵に応戦しながら逃げているうちに、だんだんと散り散りになっていきました。

小文吾もやがて仲間たちとはぐれましたが、彼には、曳手(ひくて)単節(ひとよ)を守るというミッションもありました。「しまった、彼女らを助けないと。間に合うか?」

小文吾が、燃える小草(おぐさ)を踏み分けて、馬をつないだ場所にたどり着くと、ちょうど三人の雑兵が、彼女たちを捕らえるために先を争っているところでした。曳手(ひくて)達は、馬から落ちないように麻のヒモで体をくくりつけていたのですが、焦るあまりにこれをほどくことができず、半泣き状態です。

小文吾は飛ぶように駆けつけて、大喝(たいかつ)一声、三人の敵のうち一人をバラリと斬り捨てました。残る二人の振り下ろす刀をヒラリとかわしましたが、これは小文吾に当たるかわりに、馬の端綱(はづな)を切ってしまいました。馬は自由になり、今までのストレスを晴らすかのように駆け出しました。

小文吾「あっ、まて」

小文吾は残りの二人の雑兵を一瞬で倒し、あとも見返らずに馬を追いました。

馬は山の反対のふもとに着きました。そこには野武士たちがたむろしていて、若い女二人を乗せた馬が現れたことを喜びました。さっそくこれを捕まえようとしましたが、馬は凶暴化しており、数人の野武士たちを蹴倒し、踏みにじりました。

野武士「くそっ、逃がさねえ」

野武士の一人が、鉄砲で馬を撃ちましたから、肛門から背中を撃ち抜かれ、さすがの暴れ馬も、女二人を乗せたまま、どうと倒れてしまいました。

そのとき、二つの鬼火がどこからともなく現れ、馬の体に乗り移りました。すると死んだはずの馬が突然よみがえり、さっきまでの勢いに二倍して、遠く見えなくなるまで走り去ってしまいました。そこにやっと、小文吾が追いつきました。

小文吾「ハア、ハア… 今のは何だ。死んだと思った馬が、生き返ったように見えたぞ。おい、おまえら、あれはどういうことだ」

野武士「そんなことはどうでもいい。あいつらの代わりに、お前の身ぐるみをはいでやる」

小文吾「ハア、ハア…」

息を切らした小文吾は、なんの感動もなく、横から突きかかる二人の野武士の槍先をやすやすと切り落としました。そして二人の腕をつかむと、前方に振りつけて、頭と頭をひしゃげるほど叩きつけました。二人のが転がりました。

小文吾「ハア、ハア… 馬を追わなければ」

小文吾はそのまま、馬を追って、ヨロヨロと走り去りました。


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