里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

41. 信乃、故郷でも指名手配される

前:40. 親兵衛が神隠しにあう

信乃(しの)、故郷でも指名手配される

犬江(いぬえ)親兵衛(しんべえ)が、コツゼンと消えてしまいました。

暴風(あかしま)舵九郎(かじくろう)の人質として取られていたときに、謎の雲がモクモクと現れて舵九郎(かじくろう)を瞬殺し、そして親兵衛(しんべえ)をどこかにさらって消えてしまったのです。照文と文五兵衛があたりを探し回っても無駄でした。

文五兵衛(ぶんごべえ)「あれは何だったんだ。天狗のしわざ? もしそうなら、舵九郎(かじくろう)は罰せられても、罪のない親兵衛(しんべえ)は無事と思いたいものだが。きっとすぐに帰ってきますよ、たぶん…」

と、あまりアテもなく妙真をなぐさめます。妙真はすっかり取り乱しています。

妙真「孫がいなくなっても、文五兵衛さんにはまだ小文吾さんが残っている。私には本当に何もなくなってしまった。もう死にたい」

照文「元気を出してください。仮にも彼は犬士です。伏姫や役行者(えんのぎょうじゃ)の霊が味方についているんですよ。一旦死んだのに、あとで生き返ったほどじゃないですか。必ず無事に帰ってきます。どうか命を粗末にしないで、生きて待ちましょうよ。安房は安全です。そこで親兵衛(しんべえ)くんを待ちましょう」

文五兵衛「妙真さん、蜑崎(あまさき)どのの言うとおりですよ。今はそれが一番いいんです。わかってくれますね」

妙真は、力なくうなずきました。

照文「ありがとう妙真さん。…しかし、依介(よりすけ)は気の毒だった。戦闘能力が5くらいしかないのに、彼は勇敢に戦った。無念にも死んでしまったが、私は彼をリスペクトしますよ、すごく」

照文はこう言って、依介の死体を探して葬ってやろうとしました。ふと気づくと、依介は近くの地蔵の横にボーッと突っ立っています。

文五兵衛「わあっ、依介の幽霊だ。ナンマンダブ!」

依介「いや、僕生きてますよ。…っていうか、確かに、頭を割られてもう死んだと思ったんですが、なんか、不思議な雲から降ってきた雨が、僕の口に入って。そしたら立ち上がれるようになったんです。まあ、傷は痛みますが… みんなも無事だったんですね、よかった」

こんなわけで、照文、妙真、ついでに依介(照文に気に入られました)が、引き続き、安房への道についたのでした。文五兵衛は、大塚に行ってこれまでの事情を三犬士と丶大に伝えるというミッションのため、来た道を戻っていきました。

文五兵衛「わたしも自分の仕事を済ませたら安房に行きますからな。それまで達者で」
妙真「文五兵衛さんもどうぞ達者で。まだ暑いですから、ご自愛なさって…」


さて、時間をすこしさかのぼって、場面は信乃・現八・小文吾が大塚に着いたあたりに移ります。明け方に行徳(ぎょうとこ)を水路から出発して、その日の夕方にはもう目的地に上陸していました。場所は、くしくも、例のサモジローに刀を取られた、神宮(かにわ)の河原です。

現八「ふーん、まさにここで、信乃が村雨(むらさめ)を盗まれたんだな。まったく、悪い奴がいたもんだ」

信乃「ああ。あれから色々あったなあ。さて、ここから大塚の里までは一里くらいなんだけど、伯父の蟇六(ひきろく)たちがいるので、直接そこに帰るわけにはいかない。どこか少し離れた場所を宿に決めたいけど…」

近くにいた男が、信乃に気づきました。

???「おや、そこにいるのは、大塚さんの甥御(おいご)さんじゃないか。わたしですよ、矠平(やすへい)です」

悪い人には見えません。しかし、誰だっけ?

信乃「はい。どこかでお会いしましたか?」
矠平(やすへい)「ここで船を貸しました」
信乃「ああ、あのときの方でしたか。その節はどうも」
矠平(やすへい)蟇六(ひきろく)どのが水に落ちたとき、勇敢にそれを救ったのをよくおぼえていますぞ」
信乃「ええ、まあ…」
矠平(やすへい)「しかし、その蟇六(ひきろく)さんがあんな目に会うとはなあ。実にお気の毒でした。信乃さんはあれからどこに行っていたのです」
信乃「まあ、いろいろ所要がありまして… って、えっ? って、何ですか」
矠平(やすへい)「何って… まさか、ご存知ないのですか!?」

矠平(やすへい)は、改まった顔つきになって、自分の家に三人を招待しました。信乃がいない間になにが起こったのかを教えるためなのですが、ずいぶんと人目をはばかる気配です。信乃は妙に胸騒ぎがしました。

矠平(やすへい)「まずは、お茶でも飲んでくだされ」
信乃「お茶はいいですから。何があったのか教えてください」
矠平(やすへい)「それでは早速。私が直接見たわけではないんですが、ウワサでは…」

そこで矠平(やすへい)が語ったことは、我々読者はもう知っていることですが、信乃たちにとっては驚きの連続でした。

○ 蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)が、陣代とその手下(五倍二(ごばいじ))に殺された。その理由は、嫁にやる予定だった浜路(はまじ)が直前になってさらわれたこと、さらに、献上しようとした宝刀村雨(むらさめ)がニセモノだったことらしい。

○ 使用人の額蔵(がくぞう)が主人のカタキを討って、陣代は死亡、五倍二は負傷した。だが、五倍二がウソの証言をしているため、こちらが採用され、額蔵は逮捕された。ついでに、額蔵と同じ内容を証言した背介(せすけ)も、偽証の疑いで逮捕された。

五倍二の証言:
 ・蟇六(ひきろく)亀篠(かめささ)を殺害したのは額蔵
 ・それをたまたま目撃しちゃった陣代と五倍二が、逆上した額蔵に襲われた
 ・浜路のことは知らない。村雨も知らない。たぶん全部額蔵の狂言。

○ 円塚(まるつか)山で、浜路とサモジロー(ほか三人)の死体が発見された。サモジローが浜路を殺害し、ほかの誰かがサモジローたちを殺害したらしい。

矠平(やすへい)額蔵(がくぞう)さんは、法で認められたカタキ討ちをしたのに、軍木(ぬるで)五倍二(ごばいじ)と社平(陣代の弟)に逆恨みされたせいで、殺人の疑いを晴らせずに毎日拷問をうけているという話です。このままでは死刑は免れないだろうと言われています」

信乃「…」

現八・小文吾「…」

さまざまな思いが渦巻いて、しばらくは、誰も口をひらくことさえできません。

信乃「おじ上、おば上が殺された。そりゃあひどい人だったかも知れないが、仮にも自分を成人まで養ってくれた人たちだ。なんと悲しいことだ… そして額蔵(がくぞう)のカタキ討ちの実に立派なこと。彼はやはり、自分なんかが及ばない豪傑だ」

現八「そして、それを陥れたやつらの卑怯なこと。なんとかして、犬川どのを救えねえもんか」

矠平(やすへい)「ちょっとみなさん、早まったことを考えてはだめですよ。もうひとつ重要なことを言っておかなくてはいけない。信乃さん、あなたはここら辺で指名手配されているのです」

信乃「えっ!」

矠平(やすへい)浜路(はまじ)さんを誘い出し、円塚(まるつか)山でサモジローたちを殺したのは、額蔵と信乃さんの共謀ということになっているんです」
矠平(やすへい)「里のみんなは犬塚親子を立派な人だと思っていますし、誰もそんな話を()にはうけませんが、五倍二(ごばいじ)とか、管領(かんれい)の役人たちは別です。この状況で人前に顔を出すのは危険すぎます」

ひどい話です。現八と小文吾は、拳を固く握り締め、歯ギシリをして悔しがります。

信乃「…そうですか。実に重要なことを教えてくださって、本当にありがとうございます。アドバイスに従い、大塚には帰らないことにして、母の出身である信濃にでも向かおうと思います。我々がここにいたことも、秘密にしておいてくださいね。これはお礼です(銀をチャラチャラ出す)」

矠平(やすへい)「もちろん誰にも言いません。なあに、みんな、管領が嫌いなんですよ。豊嶋(としま)の領地だったころは住みやすかったのに、管領の勢力地になってから、税金も上げられまくるし、イヤになってきますよ。土地の人たちはみんな犬塚どのの味方ですが、それにしたって、役人の目がある以上、早くここを離れたほうがいいです。お礼なんていりませんよ」
矠平(やすへい)「道の途中まで、私の息子の力二郎(りきじろう)尺八(しゃくはち)をつけましょう。心()えがまっすぐで、わが子ながら頼もしいやつらですよ」

現八・小文吾「お心遣いはありがたいが、目立たないように、我々三人だけで行きますよ」

矠平(やすへい)「そうですか、それもいいでしょう」

信乃「矠平(やすへい)さん。先ほどからの受け応えの的確さ、あなたはただの舟貸しに見えません。昔はなにか立派な身分があったのでは?」

矠平(やすへい)「いや、ははは。聞かれたからお答えしますが、私は姥雪(おばゆき)世四郎(よしろう)という名前を持っておりまして、ちょっと武士っぽいことをしていたこともあるのです。若気の至りでいささか過ちを犯してしまい、クビになったのですが…」
矠平(やすへい)「そうだ、信濃路に行くなら、荒芽山(あらめやま)音音(おとね)というおバアさんを訪ねていきなさい」

矠平(やすへい)はサラサラと客を紹介する手紙をしたため、信乃に預けました。

矠平(やすへい)「荒芽山のどこらへんにいるのかは、実は私も知らない。ちょっと疎遠になっているんでね。でもきっと、協力してくれるはずですよ。会えたら手紙を渡してください」

信乃たちは、あらためて(無理に)矠平(やすへい)にお金を受け取ってもらうと、厚くお礼を言って、笠で顔を隠しながら家を出て行きました。

向かう先は? 信濃でしょうか?

そんなわけはありません。三人とも、まだ口には出しませんが、額蔵こと犬川荘助の救出を決意し、黙々とプランを考えているのでした。


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