里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

39. みんな大塚から帰ってこない

前:38. 四犬士への仕官の誘い

■みんな大塚から帰ってこない

おもな連中は、舟に乗って房八の家に向かいます。しかしその前に、鹹四郎(からしろう)・均太・孟六の死体は重石(おもし)をつけて川に沈めました。さいわいこいつらに親兄弟はいなかったので、そんなに問題はありません。

房八と沼藺(ぬい)の遺体は、手近なに収めて運びました。蜑岬(あまさき)照文(てるふみ)が舟を操って、誰にも目撃されることなく、スムーズに目的地に着くことができました。

同じ日の夕方には、小文吾と丶大(ちゅだい)が追いついてみんなと合流しました。

妙真(みょうしん)「首尾はどうでしたか」

小文吾「うまくいきましたよ。新織(にいおり)たちは、みんな房八の首を犬塚どののものだと思って疑いませんでした。大喜びしてましたよ。兵を全員引き連れて、首を持って、イソイソと許我(こが)に帰っていきました。もちろんオヤジも無事に帰してもらいました」

妙真(みょうしん)「房八は立派に役にたったんだねえ。きっと冥土でガッツポーズをしているでしょうね」

小文吾「オヤジは最初、あれが本当に犬塚どのの首だと思ってるもんだから、家に帰るまで実に悲しそうな顔をしていました。あとで事情をすべて説明しましたが…」

○ あの首は、実は房八のもの
○ 信乃は病気が治った。房八と沼藺(ぬい)が死んで血をくれたため
○ 大八も死んだ、と思ったら生き返った。そしたら玉を持ってた
○ 玉の持ち主は、里見の家臣になる運命らしい

小文吾「驚くやら、喜ぶやら、悲しむやら… 数年分の感情を使ってしまったようで、今は疲れはてて、ちょっとぐったりしています。自分は古那屋に残ると言うので、今日は連れてきませんでした。まあ、家が完全にカラッポになるのも不審ですしね。明日の昼には、一度ここに来てくれるはずです。家中に残った血のあとは、俺が掃除しておきましたよ」

信乃・現八「ありがとう」


さて、この晩のうちに、房八たちの葬式を行なうことになりました。たまたま家の中に手伝いなどのほかの人がいないので、ちょうどいいチャンスなのです。また、プロのお坊さん(丶大(ちゅだい))もいますから、おあつらえ向きです。夜中に全員で家を出ると、墓地にふたりを埋め、丶大(ちゅだい)が合掌して弔いの文句を唱えました。

丶大(ちゅだい)「世の中のすべては本来空しく、現世はアワぷくのようなものだ。愛も財産も、手の中にとどめることは誰にもできない。これを知ることで、寂滅の境地にいたることができる。天国よいとこ。安らかに眠りたまえ」

その後、信乃は梅の種を墓の近くに埋め、それから全員で合掌して念仏をとなえました。幼い親兵衛も、見よう見まねで手をあわせ、「なむ」とつぶやきました。

これで葬式が無事に終了しました。

家に戻ると、小文吾は、さっそく信乃と現八をつれて大塚に行ってくると言い出しました。

妙真「ずいぶん急ぐのね。せめて初七日までいてほしいのだけど…」

小文吾「大塚はそれほど遠くはありません。遅くとも四、五日のうちに戻れるはずですから、むしろ初七日にはみなここに揃うことができますよ」

蜑岬(あまさき)照文(てるふみ)は、やおら進み出ると、金の包みを三袋、犬士たちの前に差し出しました。

蜑岬(あまさき)照文(てるふみ)「犬塚どの、犬飼どの、犬田どの。これを当座の路用(おこづかい)として受け取ってくだされ。それぞれ三十両ずつある。さしあたりなので、少なくて申し訳ないが…」

信乃「えっ、大塚なんて近くですし、路用なんていりませんよ」

照文(てるふみ)「受け取ってもらえないと、私が殿に顔が立たないんですよ。毎回こんなことばっかり言ってますが」

信乃・現八・小文吾「…では、あまり断っても失礼ですし、ありがたくお預かりします!」

照文(てるふみ)は、さらに犬川荘助にもということで、余分の一包みを信乃に預けました。また、親兵衛(の保護者の妙真)にも、房八たちの供養の費用としてさらに一包み渡しました。

丶大(ちゅだい)「わたしも犬士たちと一緒に大塚に行きたいが、坊主の本分として、ここの初七日の世話をするほうが優先だ。みなが無事に行って戻ってくるよう祈っているぞ」

夜が白んできたころ、三犬士は、小文吾のあやつる舟に乗り、妙真が作ってくれた弁当を携え、大塚をめざして出かけていきました。


この日の昼に、文五兵衛(ぶんごべえ)がトボトボと訪ねてきました。妙真がこれを迎え入れ、「よくきました」と上座に案内しましたが、その後、妙真は何もしゃべることができず、涙ぐみながらずっと黙って座っています。文五兵衛(ぶんごべえ)もこれにつきあって、同じ部屋の中でだまって悲しさにひたりました。そこに親兵衛が縁側から転がり込んできました。

親兵衛「おばあさま、おなかへったー」

文五兵衛「おお親兵衛、すこし見ないうちに、賢そうな顔になったのう。こっちにおいで。(わき腹をのぞいて)どれどれ、これが例の『アザ』か」

妙真「そして、これが『玉』よ(親兵衛の腰のお守り袋から玉を出して)」

文五兵衛「実に驚くべきことだな。…なあ妙真さん、残された我々どうし、今後もよくよく協力しあっていきましょうな。それが何よりの、死んだ者たちへの供養と思うのじゃ」

妙真「わたしもそう思います。どうぞ今後も…」

その後、文五兵衛は、小座敷に滞在している丶大(ちゅだい)と照文にあいさつし、しめやかな雰囲気の中、これまでの話を改めて聞きました。

照文(てるふみ)「さて文五兵衛さん、妙真さんには先に相談したのですが(そして断られちゃったのですが)、親兵衛(しんべえ)くんを里見の家臣として安房につれて帰ってよろしいかな。他の三犬士は、すくなくとも犬川どのと一緒でないと応じられないということで、ちょっと保留中なんですが」

文五兵衛「なるほど、せめてひとりは連れて帰らないと、蜑岬(あまさき)どのの顔がたちませんな」

照文(てるふみ)「おお、わたしが言うべきセリフを理解してくれてかたじけない」

文五兵衛「私にとっては大変な名誉です。小文吾どころか、孫まで里見殿に仕えることができるとは。しかし… 親兵衛(しんべえ)自身にはまだなにも判断できないことですから、今すぐ行くべきかというと、ちょっと困りましたね。せめて、初七日が終わって、小文吾たちも戻ってきて、妙真さんが淋しさに耐えられる状態になったらまた判断する、ということではどうでしょう」

照文(てるふみ)「よろしい、では、犬田どのが戻ってきてから改めて…」


丶大(ちゅだい)照文(てるふみ)は、文五兵衛の宿と妙真のところに交互に泊めてもらいながら、三人の犬士が帰ってくるのを待ちました。

やがて初七日になってしまい、夏の暑さがやわらいだ、秋らしい風がときどき吹くようになりました。仕方なく、いる人だけで法事を行ないました。しかし、三人が帰ってくる気配はありません。

照文(てるふみ)「ちょっと変ですね」

丶大(ちゅだい)「これは、大塚で、三人に何かが起こったと考えるべきだろう。信乃にとっては因縁のある地だから、なにかトラブルに巻き込まれる可能性はある。しかし、それならそれで他の二人が何かこちらに連絡をするはず。ちょっと何が起こっているのか想像しがたいので、今回は私が直接行ってみたいと思う」

照文(てるふみ)・文五兵衛「ははっ」

丶大(ちゅだい)「ともかく、私は何があろうと帰ってくるから」

こんなわけで、大塚行きの便船に乗って、丶大(ちゅだい)は大塚に出かけていきました。

そして、丶大(ちゅだい)からの連絡さえないままに、さらに三日がたってしまいました…


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