里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

28. 浜路の兄が名乗り出る

前:27. 左母二郎、浜路をさらう

浜路(はまじ)の兄が名乗り出る

浜路(はまじ)はサモジローの語る今までの事情を涙を流しながら聞いていました。なによりつらいのは、宝刀村雨(むらさめ)がここにあるということです。つまり信乃(しの)が持っているのはニセモノということであり、このままでは彼がこれからピンチに陥ることは確実です。

浜路「信乃様ともあろう人が、みすみす大事な刀をすりかえられたなどとは信じられません。本当にそれは本物なのですか」

サモジロー「疑うのはもっともだな。確かに信乃は一筋縄ではいかなかったぜ。しかし、ほら、なんなら手にとって見てみろ。これは本物の村雨だ」

浜路「…」

浜路は刀を受け取るやいなや、意外な瞬発力でサモジローに突きを発しました。「オットのカタキ!」

サモジローが驚いて飛びのいても、さらに続いて切っ先を繰り出します。決死の攻撃ですので、なかなかあなどれません。サモジローはつい脇差を抜いてこれに応戦し、胸の下あたりを切り裂きました。さすがに浜路はあっと叫んで刀を落とします。それを踏みつけ、髪をつかんで

サモジロー「このアマ、やさしくしてりゃあつけあがりやがって! 思わず傷をつけちまった、もう売り飛ばすこともできねえな… ここまで来ても信乃ひと筋なのかよ、腹が立つ。トドメはさしてやらねえ。散々苦しんでから死ねよ」

浜路「無念… 約束した夫ともついに添うことはできず、練馬の家族にも会うことができなかった。大塚の養い親には今日までつらい目にあわされ、私の人生にはなにもいいことがなかったわ。これは前世のむくいなのかしら。私が死んだら水鳥に生まれ変わって、信乃さまに危機を知らせに行きたい…」

サモジロー「へっ、その傷で、長々とよくしゃべることだ。がんばったご褒美に、やっぱり今楽にしてやるよ。なんならこの村雨で殺してやろうか。大好きな信乃の刀だ」

浜路「本望だわ。そして、あなたもじきに同じ目にあうのよ」

サモジロー「死ねよ」

そのとき、消え残る火の中から手裏剣がとびだして、サモジローの左の胸の下に刺さり、それは背中まで貫きました。サモジローはあっと叫んで、のけぞり倒れます。

火の中からのっそり現れたのは、他ならぬ、寂寞(じゃくまく)道人(どうじん)です。さっきとは服装が違い、朱塗りの大刀をさげ、ゴテゴテとした防具を着込んだ、いよいよカブキなオッサンです。とはいえ、本当にオッサンかと思いきや、良く見れば20歳ほどの男です。善人か悪人かはちょっと見分けがつきません。

致命傷を負ってなお、最後の力を振り絞ってヨロヨロ立ったサモジローをビンタで張り倒し、刀を奪ってこれに見惚れました。

オッサン「これが村雨(むらさめ)か… うわさに違わぬ、すごい刀だな。これが俺の手に入ったからには、復讐をとげる日も近づいたわ。それはそうと、おい、女、しっかりしろ」

寂寞(じゃくまく)道人(どうじん)は浜路に気付け薬を含ませました。浜路はすこし意識がはっきりしましたが、派手派手なごついオッサンに抱きとめられていることに気づくと、嫌がって身をよじってもがきました。

オッサン「おい、落ち着け。話をききなさい。この薬でも、長くはもたないのだ。俺はお前の兄だ。犬山(いぬやま)道松(みちまつ)忠与(ただとも)というのだ」

浜路「なんですって」

道松(みちまつ)「まあ、今は、なんちゃら道人という適当な名前で、各地を渡り歩きながら、金を集めるための見世物をやっているのだがな。我が家に伝わる火遁(かとん)の術の秘法を、こんなふうに民をだます目的で使うのは情けないところだが…」

道松(みちまつ)「俺は、さきの戦で管領扇谷(おうぎがやつ)に滅ぼされた練馬の一族の生き残りだ。重臣だった父貞与(さだとも)もまた、この戦いで死んだ。カタキは、扇谷(おうぎがやつ)本人と、父を殺した竈門(かまど)三宝平(さぼへい)だ。俺はなんとしてもこいつらを殺す。そのためにどうしても軍資金を集める必要があるのだ。もっとも、こんな自殺ショーは今日でやめるつもりだ。本当だぞ」

道松(みちまつ)「お前たちの会話は、たまたま聞こえた。しかし、練馬から養女にもらわれて、大塚の里で育ったと聞いたときは驚いた。父から聞いたところでは俺には腹違いの妹がいたらしいのだが、お前が言うことが、そいつのプロフィールそのままだったからだ。これが本当なら、お前の本当の名前は正月(むつき)だ」

浜路「…では、あなたが私のお兄様?」

道松(みちまつ)「そうとも。お前が養女に出された理由を教えてやろう。ただし、すこしつらいぞ。父にはふたりの(めかけ)がいた。男を先に生んだほうを正妻にするという約束をしたのだが、これに勝ったのは、俺の母、阿是非(おぜひ)のほうだ。お前の母だった黒白(あやめ)は、お前を生んだが男子には恵まれなかった」

道松(みちまつ)黒白(あやめ)はこれを妬み、阿是非(おぜひ)に毒を盛り、俺を絞め殺した。母は死んだが、俺だけは幸運にも後に息を吹き返した。もっとも、死にかけたときに、肩にあったコブの上に、牡丹のような形のアザがついたようだがな」

道松(みちまつ)黒白(あやめ)はその犯行がばれて、斬首になった。そしてお前は、養女という形で家から追放されたのだ」

道松(みちまつ)「俺とお前の母どうしは敵だった。しかし俺達が敵になる理由はない。さきに聞いた話によれば、お前は夫への操を守って戦う、実に立派な女だ。助けに入るのがもうすこし早ければと、残念でならない。こんなところで死ななくてはならないのは黒白(あやめ)の罪の報いなのかもしれないが、来世ではきっと幸せになることだろう。どうか安らかに逝くがよい」

浜路は、絶え絶えな意識で、この話にずっと聞き入っています。

実は、この話を隠れて聞いているものがあと一人います。額蔵です。信乃と別れた帰り道に、偶然ここを通りがかったのです。


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