里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

23. 網乾左母二郎登場

前:22. 浜路が実の両親のことを知りたがる

網乾(あぼし)左母二郎(さもじろう)登場

犬塚信乃(しの)は、蟇六(ひきろく)のところに養子に行って以来、なかなか里の人たちと親しく口を聞く機会がありませんでした。蟇六(ひきろく)たちに止められていたからです。ただし糠助(ぬかすけ)だけは古いなじみということで許されていました。その糠助(ぬかすけ)が死にそうだという知らせが信乃に届きました。

糠助(ぬかすけ)は前の年に奥さんが亡くなり、病気がちのままひとり暮らしをしていました。信乃(しの)が薬代として小判一枚を援助したこともあったのですが、それでも良くはならなかったのです。

(番作が信乃にこっそり、小判十枚の遺産を残していたのです。このうち三枚は、養子先の蟇六(ひきろく)に渡しました。父の三十五日の法要の費用にも一枚使いました。このときに蟇六(ひきろく)が宴会をしましたが、信乃のカネだったんですね)

信乃はすぐに糠助の枕元まで駆けつけました。

信乃「糠助さん、具合はどうです」
糠助「ああ信乃どの、よく来てくれた。私は一人身だし、死ぬことに未練はないが、実はひとつだけ心残りがあるので、それをこっそりあなたにだけ伝えたいのです」
信乃「心残りとは?」
糠助「この里の人は知らせていませんが、私には実はひとり子供がいたのです」

糠助は、もともとは安房(あわ)洲崎(すさき)の出身だということでした。そこで結婚して子供もできたのですが、妻が産後すぐに死んでしまい、子供まで病気がちなので、たちまち貧乏になりました。そこでつい密漁に手を染め、逮捕されてしまったのです。

糠助「洲崎(すさき)の浦は役行者(えんのぎょうじゃ)の霊地なので、漁は禁止だったのです」

糠助は水漬けの刑を言い渡されたのですが、ちょうどそのころは安房の領主の娘である伏姫(ふせひめ)の三回忌だったので、恩赦にあずかることができました。だからといって、今後の生活の当てがあるわけでもありません。子供(村長があずかってくれていました)は返してもらったものの、もう心中してしまおうと思って、ある橋の上まで来たのでした。

糠助「玄吉(げんきち)(子供の名前)を抱えて飛び込もうと思ったときに、飛脚に声をかけられました」

その飛脚は、足利成氏(なりうじ)の臣下で、安房の里見に(つか)いにいく途中でした。その人が子供を育てたいと申し出てくれたので、ありがたく預けることにしたのです。その後糠助はひとり、この大塚の里に流れついたというわけです。

糠助「そのときは、その人の名前を聞くこともできませんでした。いま成氏(なりうじ)様は、許我(こが)から離れて千葉にいると聞きます。玄吉が生きていれば、彼もその付近にいると思います。もし玄吉に会うことがあれば、実の親がここにいたということを伝えてほしいのです」

信乃「わかった。なにか彼に特徴はないかな」

糠助「玄吉の右の頬には、牡丹(ぼたん)のようなアザがあります」

信乃「!」

糠助「あと、彼は玉の入ったお守り袋を持っています。誕生祝いに鯛をさばいたとき、そこから出てきたんです。『信』っていう文字が書いてある、不思議な感じの玉です」

信乃「!!」

糠助「手がかりはこんなものです。おねがいします…」
信乃「なんか、絶対に見つけられそうな気がするよ。安心してください、糠助さん」

信乃はここで聞いたことを帰って額蔵(がくぞう)にも教え、ふたりでこの偶然のめぐり合わせに驚きました。

次の朝、糠助は死にました。信乃は蟇六(ひきろく)から金を借りて額蔵の葬式を世話しました。後には糠助の家を売り、その金を蟇六(ひきろく)に返しました。村人は信乃の心づくしに感心し、「早く信乃くんに村長になってもらいたいなあ」とウワサしました。


さて、話は変わって、網乾(あぼし)左母二郎(さもじろう)という男のことを話しましょう。

左母二郎(さもじろう)は、関東管領である扇谷(おうぎがやつ)定正(さだまさ)に仕えていましたが、素行が悪くてクビになってしまいました。独身の身軽さでフラフラとこの大塚の里までやってきて、習字や楽器などを教えて生活費にしていました。(糠助の家を買ったのはこの男です。)

左母二郎(さもじろう)はまだ25歳でけっこうハンサムです。しかも流行の歌やダンス、楽器などが特技なので非常にモテました。さらに軽薄なので、あたりの女性たちとしばしば浮名(うきな)を立てました。亀篠(かめささ)左母二郎(さもじろう)のファンなので、村長の蟇六(ひきろく)にも大目に見られ、村を追い出されることはありませんでした。

ある晩、蟇六(ひきろく)は城から来た巡検役(陣代(じんだい)簸上(ひかみ)宮六(きゅうろく))を接待する必要がありましたので、左母二郎(さもじろう)を宴会の盛り上げ役に呼びました。左母二郎(さもじろう)は歌も踊りも披露し、さらにはお調子のいいことを言いまくって客をよろこばせました。さらに、蟇六(ひきろく)は、浜路(はまじ)にはきれいな薄羅(うすぎぬ)を着せ、陣代(じんだい)のコンパニオン役をさせました。陣代(じんだい)浜路(はまじ)のことを非常に気に入り、鼻の下を伸ばしまくって、たのしく朝まで宴会をしました。(ついでに言うと、信乃は呼ばれませんでした。)浜路(はまじ)はこんな宴会に出し物にされたことを非常に恥ずかしく、悔しく思いました。

ところで、左母二郎(さもじろう)もまた、普段からから浜路をとても気に入っており、何度かラブレターを送ったりしていました。亀篠(かめささ)に歌や楽器の個人レッスンをするために屋敷に来ることが多かったのです。もっとも、浜路はこれを軽蔑して絶対にそれらを読みませんでしたが。

しかし亀篠(かめささ)は、左母二郎(さもじろう)を浜路と結婚させるのは悪くない考えだと思っています。

亀篠(かめささ)左母二郎(さもじろう)は見込みがあるわ。本人は扇谷(おうぎがやつ)様にとても可愛がられていたらしくて、また召し返してもらえる見込みだって言ってたし、それなら身分は上々だわ」
亀篠(かめささ)「さらに重要なことに、彼はハンサムよ。まだ私が若かったら放っておかないくらい。浜路はどうやら信乃なんかが好きみたいだけど、左母二郎(さもじろう)とつき合わせたら、きっとそのハンサムによろけて、信乃のことなんかすぐ忘れるはずだわ」

左母二郎(さもじろう)は浜路が欲しいので、亀篠と蟇六(ひきろく)に媚びまくります。亀篠は、左母二郎(さもじろう)がハンサムなので可愛がります。蟇六(ひきろく)は、媚びられるのがうれしいので可愛がります。お話は、なかなかイヤらしい感じになってきました。


次:24. 左母二郎、刀をすりかえる
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