里見八犬伝のあらすじをまとめてみる

15. 大塚番作が三つの首を持って逃げる

前:14. 金碗大輔、玉を探す旅に出る

大塚(おおつか)番作(ばんさく)が三つの首を持って逃げる

ここでいったん、里見(さとみ)義実(よしさね)伏姫(ふせひめ)、そしてヽ大(ちゅだい)法師こと金碗(かなまり)大輔のお話は一区切りとして、舞台はもういちど結城(ゆうき)合戦に戻ります。

長年の籠城(ろうじょう)戦のかいなく結城の城がついに落城し、義実の父親である里見(さとみ)季基(すえもと)は戦死し、義実がふたりの臣下をともなって戦場を落ち延びたまさにこの日、別の一組の親子が同じような会話をしていました。

大塚(おおつか)匠作(しょうさく)と、その息子番作(ばんさく)(16)です。匠作は足利持氏(もちうじ)の臣下で、持氏が鎌倉で死んだときに、その息子の春王(しゅんおう)安王(やすおう)を連れて逃げ出し、ここの結城氏のもとにつれて来た当人なのでした。(結城合戦ってのは、この「反逆者」持氏(もちうじ)の肩を持って息子達をかばおうとした勢力を、将軍側がフルボッコにするというそういう戦でした)

匠作「そろそろ死ぬときが来たな。しかしおまえ(番作)は逃げるがよい」

ここらへん、里見義実のときと大体同じですね。

匠作「逃げたあとは、母と姉をたよって武蔵(むさし)の大塚の里に行け。大塚ったって、昔はウチの家系の荘園だったというだけで、今はべつに俺たちの持ち物じゃないけどな」
匠作「だからこそ、母と姉をだれかが養ってやらなきゃいかん。お前がやれ」

番作「はい」

匠作「あと、この刀を持って逃げろ。これはオレが春王(しゅんおう)様から預かっているもので、村雨(むらさめ)というものだ。こいつは、いつも水に濡れているから血もつかないし、振れば水が飛び出るという、水属性のスーパーレアアイテムだ。持氏様のご子息のうち、春王さまか安王さまが生き残るようなら、その方にお返ししといてくれ。そうでなければ形見にしろ」

番作「はい」

匠作「春王さまも安王さまも捕まってしまった。彼らは京都の将軍のもとに護送されるようだ。仮にもお偉方の子息だから、めったな扱いはしないだろう。オレは今から敵軍にまぎれこんで旅をし、スキがあったらお二人を奪還してみようと思う。お前はちゃんと逃げろよ」

番作「はい」

匠作「(自分も一緒にやるって言ってゴネるかと思ったけど、なかなか素直だな)」

やがてまた二人は乱戦にまきこまれ、互いにはぐれてしまいました。匠作はその後、うまく敵の手下になりすまして、春王たちをつれた護送軍に紛れ込むことができました。この一行を仕切る警固使(けいごし)は、長尾(ながお)因幡介(いなばのすけ)です。

しかし、なかなか匠作が春王と安王を奪還するチャンスはきません。やがて一行が美濃のあたりについたころ、長尾(ながお)は京都の将軍からの手紙を受け取ります。

将軍「両公達(きんだち)を今さらに、都へは入れたてまつるな。路地にてはやく(ちゅう)しまいらせ、おん首級(しるし)をのぼせよ」

つまり、道中こっそり殺しちゃえってことです。

一行は金蓮(きんれん)寺で休息をし、そして長尾(ながお)本人からこの兄弟に説明します。

長尾(ながお)「すいません、ここで死んでもらいます」
春王・安王「ああいいよ、仕方がない。せめてふたりいっしょに殺してくれ」

手下が刀を構えます。長尾も手下も、気の毒で涙ぐみました。そりゃあ、敵の親族とはいえ、ただの子供ですからね。

匠作もこのシーンを柵の外側から見守っています。泉のごとく涙はほとばしり、胸はつぶれ、(はらわた)はちぎれる思いですが、どう考えてもこの状況からふたりを救い出すのはもう無理です。

匠作「ちくしょう。せめて当座の(かたき)である長尾を殺すか… でもそこまでもたどり着けそうにないな。もうちょっと手前にいる、手下の牡蠣崎(かきざき)錦織(にしごり)ってヤツだけでも殺して、黄泉の旅にムリヤリ付きあわせたろう」

刀がひらめき、春王と安王の首が落ちました。

その瞬間、匠作は、まわりの武士を押しのけながら「両公達(きんだち)のかしづき、大塚匠作の恨みの刃を受けよ」と叫んで、まずは錦織(にしごり)頓二(とんじ)を斬りたおしました。ついで牡蠣崎(かきざき)小二郎(こじろう)にも斬りかかりましたが、これは避けられ、逆に腕を斬りおとされます。ついで自分自身の首もすっぱり斬りおとされてしまいました。

次の瞬間、雑兵が飛び出しました。そしてすばやく春王と安王の首をひっつかみ、さらに大塚匠作の首もつかむと、その髪を口にくわえました。そして、刀を抜くとも見えないうちに、牡蠣崎(かきざき)割りに斬りたおしました。

持氏(もちうじ)朝臣(あそん)恩顧(おんこ)の近臣、大塚(おおつか)匠作(しょうさく)三戍(みつもり)が一子、番作(ばんさく)一戍(かずもり)十六歳、親のカタキ討ち取ったり!」

じつは番作も、結城の合戦を逃れたあと、思い直してこの護送軍にまぎれ潜んでいたのでした。

雑兵はあれよあれよとうろたえています。番作は幾多(いくた)の刀傷をうけながらも、血路を開いてついに陣から逃れ出ることができました。番作が持っていた宝刀村雨(むらさめ)は、殺気をもって刀を振ると、切っ先から水がバシャバシャと飛び出しますから、かがり火を消しまくって敵を混乱させることができたのです。その夜は幸い月も出ていませんから、火が消えてしまうと如法暗夜(にょほうあんや)のまっくら闇です。

長尾「とり逃がした。めっちゃおこられる…」

長尾は、将軍に「ふたりとも殺したんだけど、首をとられました」という手紙を書きました。

将軍の返事「しかたねえな。まあ大勢には影響ないし、許す。曲者(くせもの)の捜索はちゃんとしとけよ」

長尾「ほっ…」

長尾のお話はここまでで、これ以降は登場しません。


番作は、3つの首をかかえ、どこかもわからない山道を一晩中走りまくりました。次の日も、朝から夕方まで走りました。そこでようやくペースを落とし、改めて体を見ると、刀傷(かたなきず)だらけでズキズキするし、服は血だらけ。飲まず食わずですし、もうそろそろ限界です。そのとき、目の前に小さな寺を見つけました。

ここで休ませてもらおうと思いましたが、その前に、ここには墓地もあるようでしたので、番作は、まずは何より先に、持っていた三つの首を勝手に埋めさせてもらうことにしました。ここの主人に、足利持氏(もちうじ)の子のクビですって言ったら、たぶんビビって許してもらえないでしょうから。さいわい、新しい墓があって土が掘りやすかったので、その付近に三つの首を埋めました。これで一安心です。あらためて番作は玄関にまわります。

番作「ご主人いませんか。一晩休ませてほしいのです」

主人ではなく、女の子が出てきました。あきらかに番作を見て恐がっています。

番作「いや、強盗とかじゃないよ。ちょっと敵討ちしてきたんだよ。ヘトヘトなんです、なんかメシをください」

女子「ごめんなさい、ここ私のウチじゃないんです。ここの主人に、今日の昼から無理に留守番をたのまれているだけで。わたしは親の墓参りに来ただけなんです。食べ物はたぶん何かあると思いますけど、勝手に食べたらダメですよね…」

番作「オレがあとで主人に謝るから、お願いだからなんか食わせて! 死ぬ!」

女の子は、おそるおそる麦を炊き、ミソをおかずに差し出しました。番作はめしびつ一杯たべて、大満足でゴロ寝します。

女子「男女が同じ部屋で寝るのはダメでしょう。よくない噂になるわ。もう出てってよ」
番作「もう動けない。どうせ何もできないよ。お願い、寝るだけ、追い出さないで」
女子「じゃあせめて、あなただけ仏堂で寝てください」
番作「オッケーオッケー」

ということで、番作だけが離れた仏堂に行き、そこで眠りについたのでした。


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